“運動器疾患の予防にはスリングエクササイズがいい”

“運動器疾患の予防にはスリングエクササイズがいい”

おや?また難しそうな言葉、しかも日本語とカタカナの二つの言葉の合わせ技。

調べると“運動器疾患”とは、日常生活に支障の出る身体のケガや病気などをいうらしい。もう一つのスリングエクササイズ、私がカタカナ語に弱いからか情報がなかなか出てこない。しかし10年前からトレーニングに取り入れているという介護施設を発見。

 

広めのフロアに円形に椅子を並べ、一人一人が天井から延びる赤い紐(スリング)を両手に握った少し不思議な光景である。

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円の中心にいるトレーナーの方が合図をすると、軽快な音楽が流れ始め利用者さんたちが紐を引っ張りながら様々なポーズを取り始めた。これがスリングエクササイズというものか、中腰などもあり、なかなかハードそうな動き。

スタッフの方にお話を聞いてみた。

―――このスリングエクササイズは何のトレーニングになるのでしょうか?

「内転筋と言いますか、日常生活で行われる運動の為の筋肉です。例えば今行っているのは椅子から立ち上がる・座る動きの練習です」

椅子に腰かけた状態から前に伸ばした紐に体重をかけてまっすぐに立ち上がる、腕の動きだけ見ると陸上で平泳ぎをしているような運動が行われている。

「そんな日常の運動でも高齢者の方は筋肉が減っていることがあり、不意に転んでケガをしてしまうことがあるのです。それを予防するために、紐を補助にして緩やかに行うことで、運動するときのコツなどを身体に覚えてもらおうというポーズです」

―――転ぶと運動器疾患につながってしまいますね。

「そうです。転んだ時に受け身を取れればいいのですが、そのまま倒れてしまって骨折などしてしまうと、寝たきりになってしまう可能性が出てきます。その為、スリングエクササイズでは運動器疾患につながらないように日常生活の運動を想定したトレーニングを行っています。他にも、こちらのポーズはお腹の横の筋肉を鍛えるポーズです」

今度は座った状態で紐を前に引っ張りながら腰から上を左右にゆっくりと回している。両手を平行に動かしているので熟練のウェイトレスの所作を思わせる。

「上半身と下半身で身体をねじる為の筋肉で、寝返りをうつ時に必要になりますし、ベッドから車椅子への移動の時にも大事な筋肉です」

―――紐をずっと持っていますが、腕のトレーニングはないのでしょうか。

「腕もありますが、やはりどちらかというと胴体の体幹、バランスを取るための筋肉のトレーニングの方が大事ですね。紐を持つことで自重の負担が足だけにかからないという利点があり、トレーニング中のケガの可能性を減らせます」

―――これは一回でどれくらいの時間なのですか?

「15分ほど音楽に合わせて行います」

―――いくつのポーズを取るのでしょうか?

「その時々ですが、10前後のポーズを取ります」

―――音楽がだいぶテンポの速いものだったのですが

「単純にトレーニングを行うだけじゃやはり利用者さんもつまらなくなってしまうと思いますので、なるべく楽し気な音楽を使用しています」

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音楽が終わり利用者さんが個別のトレーニングに入ったので、私もスリングエクササイズを体験させてもらった。

「先ほどの椅子から立ち上がるポーズは腹筋が鍛えられますよ」

―――おぉっ!

思わず声が出てしまった。お腹の筋肉がプルプルと震えている。日頃の不摂生があるにしても、なかなかハードな格好であることには変わりない。

「腹筋は高齢者の方にとっても排便の為に大事な筋肉です」

―――これは元気な方じゃないと出来ないんじゃないですか?

「椅子から立ち上がる動きなので、紐が補助になりますので大丈夫ですよ。出来なかった人はほぼいません」

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スタッフの方は笑って言っているが、利用者の方はどのように思っているのだろうか聞いてみた。

 

「毎日の体操としてやっているから、まったく大変だとは思わないですね」

「違う動きも多いので楽しくやっています」

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どうやら辛く感じているのは私だけのようだが、スリングエクササイズを初めて5日目という女性からは

「私も最初は辛かったけど、今はもう大丈夫。どんどん楽しくなってくるわよ」

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と、慰めにも聞こえるお言葉をいただいてしまった。

 

スリングエクササイズの効果はいかがですかと尋ねると

「腰痛が収まって楽になりました」

「始めるまでは歩くのが億劫だったけど、最近では外出が楽しみになってきた」

と、喜びの声が聞こえてきた。

 

体験し、お話を伺ってスリングエクササイズの利点は、紐で負荷を軽減して身体の内側の筋肉のトレーニングが出来ることだと感じた。

つまりスリングエクササイズは陸上で行う水泳のようなものだ。しかも、着替えが不要で毎日行えて手間もかからない、何よりも安全。高齢者の方にとってこのような利点の多い運動は今後もっと広がっていくのではないだろうか。

 

今回お伺いさせていただいた介護施設“蒲生めいせい”では毎週日曜にカラオケ大会が開かれたり、夏場は付近の花火大会を屋上で見たりと活動的なイベントが行われているようで、利用者の方々の表情も明るい。天井にスリングがつながっているフロアの一角にはエアロバイクとランニングマシーンが並び、インタビューをさせていただいている間に複合トレーニング機でずっと太ももを鍛えている方もいた。

やはり好きなことを楽しんでいる人は表情も活発に見えてくる。こちらの施設には系列の医療機関があり、医療体制も万全だというからそんな安心材料も利用者さんの表情に繋がっているのかもしれない。元気な人々を見ているとこちらも元気になってくる。

“蒲生めいせい”を辞し、私はお腹をさすった。おそらく明日か明後日には筋肉痛になるのだろうと想像して。